
真言宗室生寺派大本山の女人高野
室生寺
室生の地は、古来より水の神である龍神が棲むと伝えられてきた。そのため、干ばつに際して、天皇はたびたび勅使を派遣し、雨乞いを祈祷した———
古事来歴
Origin

室生寺は奈良時代末期、山部親王(後の桓武天皇)の勅命により創建。その後、一時衰退したが、江戸時代に徳川綱吉の生母である桂昌院の庇護を受けて再興された。同じ真言宗で女人禁制だった高野山とは対照的に、女性の参拝を許していたことから「女人高野」と呼ばれ、女性の信仰を集めた。
五重塔は室生寺を象徴する伽藍のひとつであり、高さ約16メートルと屋外に建つ五重塔の中では日本最小ながら、その均整のとれた姿は見る者の心を奪う。奈良時代後期の建築技術を今に伝える貴重な遺構であり1998年の台風で損傷を受けたが、見事に修復されて再び山中にその優美な姿を見せている。
信仰と自然が融合した聖地へ
Walking around


清らかな水と深い森に囲まれたこの地は、密教の修行道場として選ばれてきた。清流の流れる室生川や苔むす石段、春のシャクナゲなど、自然そのものが信仰の対象であり、訪れる人に「生きる力」を与えてくれる。
金堂や本堂、五重塔などの伽藍も自然の地形を巧みに生かして配置されており、まるで山そのものが一つの仏界を形成しているかのようである。石段を登るごとに深まる静寂が、訪れる人々を俗世から切り離していく。現代ではその静けさと神秘性が「癒しの聖地」として注目され、心をととのえるリトリートの場としても人気を集めている。
写真は順に、①平安時代初期に建立された金堂(国宝)。手前に見える高床は礼拝のため江戸時代に増築された。②仁王門。仏敵が寺院内に入ることを防ぐ守護神


③五重塔から約400段の階段を上った先にある奥の院の常燈堂。④常燈堂を下から見上げた様子。急峻な地に建つ見事な懸造り
寶物殿
Treasure Hall

令和二年(2020年)に竣工した寶物殿には9体の仏像と密教仏具などが展示されている。写真の中央奥は女性的な優しさを感じる十一面観音菩薩立像(平安時代初期、国宝)。右手奥は穏やかな表情が美しい釈迦如来坐像(平安時代初期、国宝)。手前の6体は薬師如来の従者として12の方位を守る十二神将立像。寅神、卯神、辰神、巳神、未神、酉神(鎌倉時代、重要文化財)が安置されている。
